(リレー連載)モズブックス

いま古書業界で旬なのは、何といっても中国モノです。中国の絵画、書、陶磁器、工芸品などに関する書物は、中国バブルの崩壊がさかんに噂されながらも、どんどん新値を更新しているような印象があります。中国モノに対する評価や人気が日本で急速に高まったというよりは、中国人のバイヤーが本国の富裕層のためにチャイナマネーで買い付けているだけの話ではありますが、古書市場に及ぼしている相場の影響は甚だしく、この何年かではっきり現れています。

新しいところで一例を挙げると、学研から昭和49年に出た『宋瓷名品図録』の4 冊セット。私が古書業界に入った7年くらい前だと、売値で12万~15万円くらいだったでしょうか。なので、市場では10万もせずに落札できたと思います。それがいまは「日本の古本屋」を見ても、最低35万円からという水準に跳ね上がっています。当店は、もともと骨董や陶磁器といった古美術関連の本を集めるところからはじめたのですが、4年前くらいから『宋瓷名品図録』や『明瓷名品図録』が市場に出ても、まったく落札できなくなりました。新値を追いかけるだけの資金もないので、高騰するのを指をくわえて眺めるだけになっています…。

戦前の中国モノだと、コロタイプの写真版で、中国美術を掲載した大判の図録が人気です。いろいろありますが、『唐宋元明名画大観』とか『石涛名画譜』とか、ここ3~4年くらいの短いスパンで見ても凄まじい値上がりです。この2冊は4 年くらい前、お客様からの買い取りで当店に入ってきたことがあります。その頃から決して安い本ではありませんでしたが、いまはその時に当店が売った値段の3倍以上には値上がりしています。先日、京都で開催された大市に、この手のコロタイプ図録が出品されていましたが、私の想像力をはるかに超える価格で落札され、会場にも小さなどよめきが起きていました。

古典籍の中国モノ、すなわち唐本になると、芥子園画伝のような図譜だろうが、青銅器の図譜だろうが、印譜や墨譜だろうが、古拓本だろうが、経典だろうが、 何でもかんでも高くなってます。宋版や明版になると、大阪市内にちょっとしたマンションが買えるような値段になるものも出てきます。先日、神田の一誠堂書店さんが、宋版の漢詩選集『唐人絶句』を4億6千万円で売り出したことが大きなニュースになりました。ウチのような零細店にはまったく縁のない話ですが…。

そんなわけで、古書業界ではしばらく前から「中国モノでないと金にならない」という嘆息混じりの声が聞こえてくるほどですが、中国経済の状況とにらめっこしながらの売買は、資金が潤沢にある店でないと、なかなか難しいように思います。当店がまた中国工芸品のコロタイプ画集や、学研の『故宮清瓷図録』を扱え るようになる日は来るのでしょうか? 中国モノの高騰が古書業界の斜陽化を下支えしているような面もあるので、中国経済にはがんばってほしいところです が、いまのような『宋瓷名品図録』が35万円とかいう相場は、長くは続かないような気もいたします。